希望の村の苗作りをボルネオ全土に伝えたい  

苗作りグループ「セコニャールスタリー」とタンジュンハラパン村で話し合い

 

 タンジュンハラパン村で2年前に始まった植林用の苗作りグループ「セコニャールスタリー」のメンバー20人ほどが一同に集まり、僕の話をじっと聞いている。今回ばかりはマホもミエもいないので、僕がしゃべらなくてはならない。つたない英語で必死にしゃべり、バスキが通訳してくれる。後から、彼らに対して、ゆっくりと英語で伝えようとしてくれてありがとうといわれたが、ただそのスピードでしかしゃべれなかっただけである。

 あまりご存知ないウータン読者のみなさまにも再度お伝えする意味で、僕のしゃべった内容を、すなわち原生の種による植林用の冊子作りの内容をくり返しておきます。

 

「みなさま、今日はお集まりいただきありがとうございます。日本のウータンというNGOから来たISSYです。今日はみなさんにお願いが あります。タンジュンプティン国立公園とそのまわりにはすばらしい自然があります。オランウータンをはじめ、たくさんの動物が棲んでいて、鳥や昆虫もたく さんいます。美しい自然を眺めにたくさんのツーリストも訪れます。しかし、今、ボルネオの自然はどんどん減っています。パームオイルやマイニング(砂金取 り)などで森が削れらています。私たちウータングループは、現在、あなたがたの取りくんでいる植林用の苗作りの活動をとてもいいことだと思っています。苗 を売ることであなたがたは収入を得て、村の発展と平和に役立てることができます。貧しくて、違法伐採やプランテーションで働くこともなくなります。同時に その苗は森を再生するための植林に使われます。しかも、あなた方の作る苗は、森に落ちている種から作るので、その苗による植林は、(アカシアなどの外来種 ではなく)、その土地にもともとあった原生の種であるから、生態系にとってもとてもいいのです。私はこの取り組みを他の村にも伝え、すべてのボルネオで行 いたい。そのための植林用の冊子を作りたいと思っています。FNPFのバスキが、これを手伝ってくれるといっています。この冊子によって、セコニャールスタリーのみなさんが森を守っている活動 をいろいろな人に伝えたい。この冊子作りにぜひ協力していただきたい。みなさん、手伝ってくれますか?」

 

この提案は満場一致で賛成された。「とてもいいことだ。ぜひ手伝いたい」と。

 

 

こんな質問が来た。「日本には同じように身近に美しい森があるのか?」。僕の職場がある京都でも電車で少しいけば 森にいけると言ったあとに、こう付け加えた。読者のみなさんには批判の声もあるかもしれないが、あえて書いておきます。

 

「日本にもたくさん森があります。日本の国土の70%は森林です。しかし、そのほとんどはもともとあった木ではあ りません。日本の森林の多くはスギやヒノキですが、これはもともと生えていたものではなく、ほとんどが人工的に植えられたものです。もともとはコナラやブ ナといった広葉樹が生えていたのです。太平洋戦争のあと、日本の政府は、林業を活性化させ、たくさんの家を建てるために、比較的すぐに生え、木材にしやす いスギやヒノキをたくさん植えました。それがお金になり、発展に必要だと思ったからです。しかし、高度経済成長とともに、ボルネオなど外国からどんどん安 い木を輸入するようになった。それとともに日本の林業は衰退し、森林を手入れすることをしなくなりました。いま、日本の森林はどんどん荒廃し、ぼろぼろに なっています。その一方でボルネオを始め、世界の森林を乱伐しているのです。僕は、ボルネオで同じようなことになってほしくありません。みなさんのような 原生種の植林を通して、森を守っていってほしいと思います。」

 

村人は、実に熱心に僕の言葉に耳を傾けてくれた。ある村人は握手とともにこう言ってくれた「ありがとう。私たちは この土地の自然を守っていくよ」。