希望の村の苗作りをボルネオ全土に伝えたい      

荒廃した土地での新たな植林の挑戦ーラマンドーー

 

 今、FNPFが新しく植林に取り組んでいるラマンドーという土地に来て、山小屋に泊まっている。この山小屋は、5人がかりで、たった4日で立てたそうだ。立派な木の家である。昨晩は8時に寝てしまったため、早朝4時にばっちり目が覚めた。せっかくなので、蚊が飛び回るのに耐えながら、朝日が昇るのを眺めようと思う。ラマンドーは広々とした土地で、周りが見渡せ、朝日が見やすいのだ。なぜなら、ここには森がとても少ないからだ。かつて、山火事や違法伐採、長期の農業により、非常に土が悪く、植物が育たなくなった5万ヘクタールの土地(タンジュンプティン国立公園全体で40万haなのでかなり広大だ)の森の再生に、昨年の9月からFNPFは新たなチャレンジをしている。

 

 

 2007年にFNPFのバスキが、ラマンドーの土地の調査を依頼された。その際に、ここでの植林も打診されたが、広大な土壌の質が悪い土地で、他 にもたくさんのプログラムを持っていたのでいったんは断った。しかし、ずっと彼はここの土地のことが忘れられず、再度話が来たときに、引き受けることにし た。この土地ほど、植林をし、森を再生するに値する場所はない。普段、FNPFの活動しているタンジュンプティンから、スピードボート等を使 えば2時間ほどで来れるところを、お金がないので、バイクで9時間かけて来ている。


 Natural Resorse Conservation Agencyが、FNPFのラマンドーでの活動をリコメン ドしてくれることになった。各方面へのプロポーサルや場の提供を協力してくれるが、お金はくれないらしい。しかし、政府のお墨付きがあれば、企業からのド ネーションなどは受けやすいだろう。

 

 昨日ラマンドーについた後、FNPFのメンバーが、新たにエアー  という植林の方法を教えてくれ た。木の枝に10cmほどの切り込みをいれ、そこで樹液が見えるほど削っていく。そこに土をまるくかぶせて、ビニールでカバーをし、紐で縛ってしばらくた つと、根が出てくるので、その後、枝を切り落とし、それを苗として植える方法だ。バスキはすでに、4種類20本ほどの植林を成功している。こ の植林方法には二つの効果があり、ひとつは少ない人材でも広い土地にたくさんの木を植えることができる。もうひとつは、この土地には小さな森が点々として いるのだが、ビニールカバーをかぶせた木が各地にあることは、ここでプロジェクトをしていることをたくさんの人に周知できるということだ。

 

 

 バスキにとっては、タンジュンプティン国立公園の植林も、ラマンドーの植林も夢の一部にすぎない。タンジュンプ ティンでの植林に成功した彼は、次にもっと難しいラマンドーに挑戦している。これを絶対成功させるんだ!と意気込んでいる。

 

 非常に広大なラマンドーの植林にはたくさんの人手がいるが、バスキは、この一部をタンジュンハラパンの村の人に 手伝ってほしいと考えている。たとえば、村の人に対して、さらなる植林のノウハウを学んでもらうための(ワーキング?)スタディーツアーをする。そのため の交通費が当面の課題だそうだ。

 

 2004年にコミュニティーディベロップメントをこの村ではじめた当初と比べ、村人とバスキ達FNPFは非常にいい関係にある。いま や、タンジュンプティンでの植林は、村人単独で行っている。セコニャールスタリーという苗作りグループや、エコツアーのグループを村人が作っている。

 

村人とFNPFのドラマをひとつ紹介しよう。

 僕がラマンドーに着いたとき、ここには一人のFNPFスタッフしかいなかった。彼の名はオペックで若干二十歳の青年 だ。彼はもともとタンジュンハラパンの村の子どもで、前はパームオイルプランテーションで働いていた。しかし、素行の悪い彼は、いたるところで暴力などの 問題を起こし、酒やドラッグにおぼれていたという。彼に手を焼いた両親はバスキに、FNPFで彼をなんとかしてくれないかと頼んだ。はじめは断ったのだ が、彼に聞くとやりたいといった。ラマンドーに連れてきて、彼に植林の仕方などをみっちり教え込んだ。彼はなかなか教えがいのある青年で、今では立派なス タッフだとバスキは言う。

   

 2ヶ月前に僕とマホがタンジュンプティン国立公園を訪れたとき、悲しい知らせを聞いた。FNPFのスタッフの一人が、家族を養う 収入が必要なために、しかたなくスタッフを辞めて、パームオイルプランテーションで働く道を選んだというのだ。このような現実はインドネシアのいたるとこ ろにある。GDPレベルでいまだ裕福な日本でさえ、それがいいのかどうかはわからない企業で働いている人間がたくさんいるのだからなおさら だ。バスキにその話をすると、「イエス、一人はパームオイルプランテーションに行ってしまったが、一人取り返した」と。(Issy)