木製品の樹種表示・産地表示の必要性

     奥村知亜子(ウータン・森と生活を考える会及びラミン調査会にも所属)

 

 2000年、インドネシアの環境NGOTelapakから国立公園のラミン材の日本への違法伐採~密輸という映像と報告を受け、ラミン調査会を設立して2001年にはラミン材流通の国内調査を行い、港で丸太の上に乗り、計量し樹種のチェックをする業者、税関、倉庫、製材所、下請け加工業者、製造業者、販売卸店、販売会社、量販店など、港から消費者へ渡るまでのルートを訪れ、聞き込みました。2002年から、インドネシアの環境保護活動家のメンバーやJATAN(熱帯林行動ネットワーク)と連携し、ラミン材の額縁や写真枠の密輸ルートを原地から追跡調査しましたが、やっとひとつのケースで違法性が判明するまでには、詳しい調査が必要で、調査を始めてから3年の月日がかかっていました。現在、丸太には樹種の報告義務があるのですが、製材品の樹種チェックが無用のシステムとなっています。海外での製材品の輸入時にも、当時、写真枠、額縁、丸棒などは、ラミン材がワシントン条約付属書※に入っていても樹種すらチェックすることができなかったのです。
 樹種を特定し、違法材をトラッキングして摘発するという方法を取っていてはそのうち、ラミンが確実に地球上から消える、もう、時間が残されていない。トラッキングによる摘発法での削減を諦め、「貴重樹種のラミン材の使用削減を」と企業や行政にダイレクトに依頼することにしました。まず、堺市、藤井寺市の小中学校にほうきを卸している個人商店の店主がほうきの棒をラミン材から竹材に戻して卸すことを快諾してくれました。個のイニシアテイブで発する言葉、利害なく、ひたすら森とオランウータンを守ってほしいという願いをまっすぐに誠意をもって聞き、削減を決断できる裁量を持った方々が次々と出てくださり、500社以上の会社が使用停止に至り、削減の実施にいたりました。始めはひとりの小さな誠意から、大きなうねりが始まるのです。日本と海外に昼夜昼夜兼行で働く活動仲間に、行政の中で、官僚の中で、企業の中で決断し行動していく、ひとりひとりの真実と誠意と勇気。その大きな存在と意義に、いつも感動し、感謝し、希望を持ちます。
 今、ラミン材使用削減後、伐採音の少なくなったインドネシアの森にはオランウータンが戻り、川が澄み始め、ラミンの再植林も始まって、ラミンが豊かに生える森になりつつあろうという変容を喜んではいます。 
 しかし、ラミンという樹木はただ一つの違法材に過ぎません。現在は、とりわけ、経済発展を続ける中国から多量の違法木材を使った木製品がやってきています。今だに家具量販店に行っても、家具の構成材の樹種は判然としません。ラミン材調査でも嫌というほどわかりましたが、樹種を特定してチェックするということは素人では無理です。我が家でも夫の祖母の代から使用されてきたダイニングテーブルを大事にしておりますが、購入先の店の方が「桜」だとおっしゃっていたというので、そう思っていましたが、実は熱帯林材だったとついさきごろ分かりました。桜のような深い色合いの塗装がほどこしてあるので、気づかなかったのです。
 70年代より「家庭用品品質表示法」では、「けやき」などの樹種表示があったものを、「天然木」とか「天然木化粧合板」などという表示に変更され、港では丸太材は、検数協会の方々が樹種をきっちりと判別して記載しているのに、樹種情報は加工―製造―卸―販売というプロセスの中で消えてしまいます。また、加工輸入品に関してはノーマークです。戦前、家具の樹種は家具職人の命と言われ、家具生産地と家具の樹種は切っても切り離せない特質を持ち、それを家具製造者は誇りとしていたのです。それは、50年代に丸太の輸入関税が下がり、熱帯材の大量輸入が始まったことから激変しました。おりしも、戦後の復興の住宅増に伴う家具生産に、熱帯林材の使用のために加工機材が整えられ、多様な熱帯林材を大量に使用するにつれ、零細企業の多い家具下請け業者が細かい樹種を表記することは煩雑すぎるということで、実質上樹種表示がなくなりました。そのときは、大量生産、大量使用に向けた変更であったと思いますが、今は、世界の人々がこぞって環境を守ることを必須と活動する時代です。
 違法材を削減するという仕事は言うは安し、行うはかたしです。それは私たちがラミン材の輸入の違法性を特定するたったひとつのケースのトラッキングに3年もかかったことがいい例でしょう。違法材を特定し、摘発するためには、まず、樹種表示や産地表示をして、樹種や産地に港から消費者に渡るまで関わる全ての企業が意識を強くしなくてはなりません。また、輸入されてくる加工品にも表示がなされるようなシステムがなければこれは進まないと思います。ラミン一種だけでも、削減に至れば、確実に野生生物は戻り、川が澄み、森が豊かに戻ったのです。樹種表示や産地表示の実施は、必ずや人間の住む環境をも劇的に守ることになるでしょう。樹種表示がなされれば、消費者も、木それぞれの味わいというものへの興味を回復し、また、親しくなれる日が来るのではないでしょうか。


注)・ワシントン条約付属書…2001年8月6日発効。インドネシアから輸出されるラミンは、同国政府の発行する輸出許可書が必要となり、また、インドネシア以外の国から輸出される場合は、原産地証明書が必要になります。


・ ワシントン条約…絶滅の恐れのある野生動植物の国際取り引きに関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora 略称CITES)                        


 

品質表示ラベル 消費者にわかりやすく適正な表示を行うことを目的とした名目で、「家庭用品品質表示法」に基づいて貼られるラベルで、家具類ではタンスとイス・テーブルに表示義務があある。寸法、材質、表面加工、取扱い上の注意などが記入してあるが、以下のように 「天然木」という何の意味もなさない表示は消費者の環境配慮の助けになっていない。             
(材料に関する事項の表示例)
種類  

テーブル

 甲板の表面材 天然木

いす、腰掛け、座椅子 構造部材 天然木
たんす

表面材 正面 天然木

      側面   天然木突板

漆器類

素地の種類  天然木